学園怪談

 ……どうやら女子大生達の旅行ビデオであることが分かったが、一つ気になることがあった。それは……赤茶の女性が人形を持ってカメラを横切った際、僅かだが人形の首が勝手に動いたように見えたからだ。
 そして、そこで一瞬映像が途切れ、真っ暗な画面が数秒続いた後……一瞬だが、見てしまった。赤茶の女性が喉から血を噴出している映像を。そして、その脇でカッターナイフを持ったまま立ち尽くし、上下に顔を揺らしながら笑っているかのようなピエロ人形がいるのを。
 ……。
「これって、ホラー映画か何かなんですか? あのピエロ、人を殺したんでしょうか?」
「しっ、黙って。まだ続くみたいだ」
 私は怖さを紛らわす為に能勢さんに話しかけたが、彼は真剣な眼差しのまま私を制した。仕方なく私もビデオの続きに集中することにした。
 ……。
 今度の映像は、どこかホテルの部屋と思われる小奇麗な場所が映し出された。日にちと時間が変わっていることからも、彼女達が移動して別の場所に来ているのが分かった。
 そこに映し出された女性は最初に映っていたショートカットの女性だった。
「……何て言っていいか……智子が……死にました」
 その女性はうつむいたまま伏し目がちに言った。
「ねえ、やっぱりやめようよ。友達が死んだ後なのにこんなビデオを撮るのさあ」
 ハスキーボイスの女性は相変わらず声だけで、画面に姿は現さない。
「智子のことを忘れない為にも、今の状態を少しは撮っておかないと。それに、日本に帰って警察に事情聴取される時に、このビデオが状況証拠になるかもしれないじゃない。 だって智子を殺せたのは状況的に私かアンタだけなんだから……」
 その言葉を最後にショートカットの女性は画面横のベッドに横たわった。
「私ももう寝ようかな。じゃあまた明日ね」
「おやすみ」
 そう言うとカメラを持つ女性が立ち上がったのか、映像が上にスライドし、数歩歩いたところで映像が切れた。