学園怪談

 ……。
 ザザザ、ザザ。
 砂嵐がまだ断片的に映るなか、乱れた画像の端には日付と時間が移されていた。1999.8/21/23時50分。
 ……日付が消えずに録画されていることと、テープの画像、日付からも舞台が一昔前であることが窺えた。
 画面にはどこかの部屋が映し出されていた。そこはホテルや民宿というよりも、人の家の部屋の映像といった感じだ。
「今、私達はなんと国外逃亡してイタリアに来ています。今日はとある洋館に泊まっています。ここは名高い幽霊屋敷として知られています」
「ちょっとヤダ、やめてよね~もう」
 画面に映ったショートカットの女性……大学生だろうか? のリポーター調の説明と、カメラを持つ女性のものらしいハスキーボイスが聞こえた。
「ねえねえ、ちょっとこっち映して」
 もう一人、赤茶色のロングヘアーの女の子がいた。すぐさま画像は揺れながら、その女の子の指差す先の木箱を映し出した。
揺れて安定しない映像と、途切れながら聞こえてくる音声、そして聞こえてくる息遣いなどが臨場感を伝えてくる。
「何これ~。あ、見てカギがかかってる。開けちゃおうか」
「ちょっと、勝手なことしちゃダメだよ、館の中の物にむやみに触らないようにってフィリップさんに言われたでしょ」
 またカメラの女の子の声が聞こえた。察するに、どうやらこの女子大生グループは旅行でイタリアに来て、どこかの屋敷に宿をとっているらしい。
「もう遅~い、開けちゃったもんね。ありゃ、何か人形みたいなのが入ってる」
 そう言って箱の中から拾い上げられたのはピエロ人形だった。フリルのついたサーカス衣装にとんがり帽子、そしてバッテン印の瞳と耳まで裂けた口が印象的だった。
「何この子、超可愛いね。この子なんでこの箱に閉じ込められてたんだろう?」
「知らないわよ。ちょっと怖くないのピエロなんて……。もう寝ましょう、明日のフェリーの時間に起きられなくなるわよ」
「はいはい、じゃあ一緒に寝ましょうね~」
 そう言うと、赤茶の女性は人形を抱きかかえてカメラの前を横切った。