学園怪談

ある夕方、ワシは家庭科室の中で一人残った女子生徒を発見した。その生徒は這いつくばる女に襲われたらしく、顔から血を流していた。その子は……無残なことに右の目をくり抜かれてしまっていたんじゃ。
最初は校舎に誰か通り魔でも入り込んだのではないかと警察も来てくれたが、もちろん犯人など見つかるはずもない。なにせ犯人は怪物じゃからな。
 その子はかろうじて一命はとり止めたが、それでも眼球を失ってしまった目はどうにもならず、精神的なショックが大きくて床に臥してしまった。
 それを苦にしてか、数日後、その女子生徒は入院先の病院の屋上から飛び降り自殺をしてしまったんじゃ。
 友人達は彼女の死を悼んで泣いていたし、学園集会では黙祷も捧げられたが、這いつくばる女に襲われたことが原因であったことは秘密にしておいた。学園生活を送る生徒達に不安を与えまいとする配慮からな。
 そんなことがあってから、夕方以降、一人で校舎内に残ることが禁止された。生徒達も半信半疑ではあるものの、教師達の厳しい下校勧告、指導のもと、帰らざるを得なかった。そして、事件から1ヶ月くらい経ったある日、再び這いつくばる女が現れたんじゃ。
 這いつくばる女は若い女性のようじゃった。髪の毛は長く垂れ下がり、床に伸びていたから顔は見えん。格好は……どこかの会社のOLのようなベージュのスーツじゃったかのう。
 ワシが見た這いつくばる女は、廊下を懸命に逃げる女子生徒を追いかけておった。ワシは咄嗟に生徒を用務員室へ逃げ込ませた。
「はあはあはあ。あ、あ、あああ!」
 女生徒はよっぽど怖かったのか、部屋に逃げ込むと満足に言葉を喋ることも出来ず、泣き声だけを上げていた。
「大丈夫、ここにいればアイツは入って来れんよ」
 ワシの言葉に生徒は嗚咽を漏らしながら頷いた。そして、這いつくばる女との持久戦が始まったんじゃ。
 用務員室には電話もなく、外と唯一繋がっている小さな窓も校舎の裏側に面しているため、外部との連絡は全くとる事ができん。
 用務員室の前からはカサカサと動き回る女の気配だけがあった。とても部屋から出る事はできそうもなかった。