学園怪談

第36話 『這いつくばる女』 語り手 用務員さん

 紫乃さんの話が終わると、廊下から誰かの歩く音が響いてきた。
 カツン、カツン、カツン。
「な、なんだ、また幽霊か?」
 我々の心配を他所に、ドアが開けられ、廊下から入ってきたのは用務員さんだった。
「あ、用務員さん」
「よう。やっとるの。ほれ、差し入れじゃ」
 私は一瞬怒られるのかと思ったが、用務員さんはニッコリと笑い、手にしたスーパーの袋を渡してきた。
「ありがとう、おじさん。さ、みんなもいただこう」
 能勢さんは用務員さんの持ってきてくれたジュースと、おにぎりに手を付け始めた。
「あ、あの用務員さんはもしかして、私達がいることを知っていたんですか?」
 私は能勢さんにそ~っと聞いてみた。
「知ってるよ。彼は俺や大ちゃんとも仲良しだからね。この企画が持ち上がった時にも快くOKしてくれたし、後で差し入れを持ってきてくれるって言ってたんだ。さすがに勝手に校舎を使ってたら怒られるでしょ」
 能勢さんの言葉に、少し小太りの禿げ上がった用務員さんが、奇妙な笑顔で応える。
「そうですか、すいません本当に」
 私も遠慮なく缶のお茶をいただくことにした。
「せっかくだから用務員さんも何か話してよ」
 大ちゃんさんの一言に用務員さんはニヤリと笑うと。
「待っとったよその言葉を。ワシのとっておきの話をしてやろう」
 用務員さんは缶コーヒーを飲みながら、喜々として話を始めてくれた。

 ……いつだったかのう。まあワシもそれほどこの学園に長くはないから5、6年くらい前の話になるかの。学園では当時『這いつくばる女』の話題でもちきりじゃった。這いつくばる女はのう、床にビターっと姿勢を低くして張り付いているが、一見は普通の格好をした女性の姿をしているんじゃ。そして夕方になると、最後に校舎に残っている生徒の前に、たま~に現れる。生徒達の中には面白がる者もおったが、それも最初の犠牲者が出るまでだった。