悪意のようなものは感じられなかったが、あまりの出来事に俺は動けず、ただ立ち尽くしてしまった。
「な、なんだっ! こ、ここ、この蛇口を捻ればいいのか?」
 水沢はパニックに陥ってしまっているようで、自らその裸の物体に近づいていく。
「違う!」
 水沢が蛇口を掴んだ所で、怪物は彼の手を掴み、吠えた!
「お前の水をよこせええええ!」
そう言うと、口が耳まで裂け、ギラリと光るキバをむき出しにして水沢に飛び掛った!
「うぎゃああああ!」
 廊下に水沢の悲鳴が木霊した。
「水沢!」
 俺は咄嗟に怪物を引き剥がそうと試みたが、もの凄い力で水沢にへばりついていて離れようとしない。
「ひいいいいい! 俺は水なんて持ってないぞおおおお!」
 ガチガチと鳴らされる怪物の歯に恐怖しながら、水沢は必死に廊下を転げまわる。
 しかしその時!
 バチン!
 廊下の少し離れた所にスポットライトがついた。
「ひと~つ、人が寝ている深夜時」
 突如、スポットライトを浴びて登場した人影に俺達の動きが止まる。
「ふた~つ、不埒な裸の悪魔」
 いや、裸って、アンタのその格好……。
 そこに現れた男……だよな。あの踏ん張った両足の間にブラブラと揺れているモノは間違いないだろう。その謎の男は下半身は剥き出し、そして上半身には緑が特徴ある新座学園のジャージ姿、そして顔は男物の白のブリーフで覆われていた。
「み~っつ、水は水でもそいつは水沢」
 呆気にとられる俺達を前に、謎のパンツマンは怪物に大股を広げて飛び掛った。
「ぎゃあああ!」
 今度は怪物が悲鳴を上げる番だった。
 悲鳴を上げながら、怪物は廊下を走り去っていった。その背中に何かファスナーのような物が光ったのを俺は見逃さなかった。
「では諸君。悪はこの私が退治した。グンナイ!」
 そう言うと謎のパンツマンは反対方向へと走り去っていった。
 ……廊下に、呆然としたままの俺と水沢がポツンと残された。
「な、なんだったんだ今のは……」
 水沢が疲れた声で言った。