学園怪談

 ……残り3分。
 逃げるかのように、地縛霊のとり憑いた徹さんは非常階段を駆け下りると、体育館へと入って行った。
 私はお札を握り締め、懸命に後を追った。

 ……残り2分。
 バタアアン!
 体育館の中に入ると、ステージの中央で小さな台に乗っている徹さんがいるのが見えた。なんと、その首にはロープのようなものが巻きついており、下からではよく見えないが、それは天井へと続いているようだ。
「徹さん! 正気に戻ってください!」
 私はステージへ向かって全力で走った。
「……この者の……命をもらい……我は成仏せり……」
 私の目の前で、徹さんは台を降りようとする。

 ……残り1分。
「徹さあああああん!」
 私はステージを這い上がるように登り、首吊りをしようとする徹さんに向かって叫んだ。
「彼は何も関係ないじゃないですか! 徹さんは生きる義務があります!」
「……問答……無用!」
私がお札を徹さんのおでこに貼り付けるのと、徹さんが台から飛び降りるのと、ほぼ同じタイミングだった。
 
……タイムリミット!
 徹さんの頭上でパカッと何か玉のような物が割れ、ヒラヒラと大量の紙ふぶきが舞い降りてきた。
「えっ?」
 そして、辺りから拍手が聞こえてきた。
 パチパチパチパチ。
「えっ、え、えええええ?」
 見ると、後ろにはいつの間にやら紫乃さん、大ちゃんさん、能勢さん、斎条さん、そして淳さんが集まっていた。みんなでステージ上の私に拍手を送っている。
「いったいこれは……?」
 私は呆気に取られ、目の前の光景を見つめた後、徹さんの方を振り返った。
 徹さんはキョンシーの真似をしながら、私に向かってピースサインをとっていた。
見ると、徹さんの首のロープは頭上のくす球に結び付けられており、徹さんの飛び降りで勢いよく割れ、そこから大量の紙吹雪と共に『誕生日おめでとう! 祝13歳!』という垂れ幕が垂れ下がっていた。
「いや~、ごめんよ脅かして。いやいやいや」
 能勢さんが、まだはっきりと現実を受け止めていない私の肩を叩く。
「ごめんね、変なお芝居しちゃって」
 あ、黒パンツの紫乃さんだ。