学園怪談

 ……残り5分。
 階段を上がると音楽室の目の前に出た。ここは花子さんのトイレのある階だ。能勢さんの話の後だけに非常に怖い。
「徹さん! いるんですか!」
「ニャア! ニャア!」
「うわあ!」
 何処から表れたのか、私の足に黒猫モミが擦り寄ってきていた。
 そしてモミは、じっと教室棟の方を見つめていた。 
その時、音楽室の前の窓の外を、下から何かがヌーッと上がってくるのが見えた。
「な、な、なに!」
 ここは3階だ。外には何も足場になるものはないはずなのに!
 そこから顔を出したのは血まみれの女の子の顔だった。
「ひゃあああああ!」
私は悲鳴を上げながら教室棟の方へと走り出した。 

……残り4分。
 教室棟の方に近づくにつれ、何だか言いようのない、どんよりした空気が流れ込んで来るのを感じた。よくは分からないが、何やら吐き気を催すような感覚だ。
 その時だった!
「徹! 正気に戻るんだ!」
 私の目に、耳に、淳さんの姿と声が同時に飛び込んで来た。
そして、淳さんの視線の先に……徹さんがいた。
……徹さんはガックリと首を項垂れていた。しかし、前に突き出された両手の手首は下に垂れており幽霊の様な仕草をしている。
「淳さん!」
 私は淳さんの横に駆け寄り、意識のない徹さんの姿を食い入るように見つめた。
「地縛霊だ! 徹の体に地縛霊が乗り移ってしまった!」
 淳さんの声に反応するかのように、徹さんはゆっくりと顔を上げた。
その顔は血の気を失っているのか真っ青で、生気のない瞳が虚ろに私達を見ている。
「……口惜しや……生きている者が羨ましい……この体は……貰い受けた!」
 バタアアアン!
 そういうと、徹さんは背後の非常階段のドアを開けると、階段を駆け下りていった。
「た、大変だ! 早く捕まえなきゃ! 僕は足を挫いたみたいで動けない。徹を、徹を助けてやってくれ!」
 淳さんは私にすがりつくかのように言葉を発した。
「で、でも、いったいどうすれば!」
「これだ、この呪符を徹の額に貼り付けるんだ! そうすれば地縛霊から開放されるはずだ!」
 私は淳さんからお札を受け取ると、急いで階段を駆け下りて後を追った。