学園怪談

「……ティルサーマ……ビルケン……ダマ!」
 呪文を全て読み終えた博人は静かに魔法陣を見つめた。
 ……変化はない。
「美由紀……美由紀! 帰ってきてくれ! みゆきいいいいい!」
 彼の絶叫と共に、ロウソクの炎が風もなく揺れた。
 ……博人の目が中央の布に釘付けになった。
布がモゾモゾと動き始め、その真ん中の下で、何かが少しずつ少しずつ膨らんできていた。
「あ…あ…あ…」
言葉を失くして立ち尽くす博人の前で、布の膨らみはますます大きくなり、次第にそれは人の形を成してきた。
「み、美由紀! 美由紀なのか」
 博人の言葉にビクッと反応するが、それに対する答えはなかった。
 ダダダダダダ!
 突然、博人の目の前で布の下の物体が立ち上がり、布で全身を隠しながら部屋を出て行った。
「あ、ま、待ってくれ美由紀!」
 いきなりの彼女の逃走に呆気にとられた博人だったが、それでも慌てて逃げ出した彼女を追いかけた。
 ダダダダダダ。
 布を体に巻いた美由紀と思われる物体は姿を隠したまま、文字通り逃げるように走り回った。
「待ってくれ美由紀! 俺だよ博人だ! 忘れてしまったのか?」
 博人は懸命に追いかけながら、美由紀の名を叫んだ。
 やがて、美由紀は学園の会議室の中へと逃げ込んだ。
 博人も中に飛び込み、後ろででカギを閉めた。
 これでもう美由紀はどこにも逃げられない。
「美由紀、美由紀なんだろ?」
 彼の問いかけに対して、布の中の人物は後ろ向きのまま微かに首を縦に振った。
「……ひ……ろ……と」
 間違いなく彼女の声だった。やっぱり蘇生術は成功したんだ。
「何で逃げたりしたんだよ、俺はお前に会いたくて……会いたくて」
 涙をこぼれ落としながら博人はゆっくりと彼女に近づいていった。
「ひろと……ダメだよ……私は死んだのに……」
 美由紀は逃げなかった。でも、布に巻いた体、そして顔を見せようとはしなかった。
「お前が死んでから俺には火が消えたかのような毎日だった。俺はどんなことをしてでもお前に……会いたかったんだ」
 博人は生まれて初めて、女性を抱きしめた。