扉が開く音がして、『こんにちは』と聞き覚えがある声が聞こえた。

『あの、どちら様ですか?』と訊ねるお母さんの声。

私の部屋は、玄関に近いこともあって2人の声がよく聞こえる。

『蒼さんのクラスメイト、一ノ瀬 陽向と言います』

『一ノ瀬 陽向くん‥‥‥って、えっ⁉︎ もしかして、あの時の陽向くん?』

とても驚いた様子のお母さん。

2人は初対面だと思っていたのに、陽向くんのこと知ってるの?

それに、“あの時”ってなに?

私にはさっぱり分からない。

けれど、陽向くんはすぐに分かったようで『はい』と返事をした。

『また会えて嬉しいわ! それに、こんなにも大きくなって』と楽しそうにお母さんは話を進める。

“また会えた”ってことは、昔、どこかで会ったのかな?

まだ少しぼーとする頭で考えていると‥‥‥。

『ねぇ、陽向くん。今、蒼、起きてるから会わない?』

ちょっと、お母さん⁉︎

陽向くんに会えるのは嬉しいけど、それはまずいよ!

陽向くんに風邪を移してしまわないか心配なのに『ぜひ、会わせてください』と陽向くん。

‥‥‥どうしよう。

初めて陽向くんが家に来るの?

しかも、私がいるこの部屋に⁉︎

焦る気持ちと裏腹に、お母さんは快く陽向くんを家に招き入れた。

『お邪魔します』

だんだんと近づく2人の足音。

そして、私の部屋の前に来るとピタリと止まった。

ドアをノックする音がして、すぐにガチャリとドアが開く。