しばらくすると、お母さんは準備が終わったのか棚の上に置いてある写真に向かって手を合わせた。

それは、素敵な笑みを浮かべているお父さんの写真。

胸がぎゅっと締め付けられる。

少しして、お母さんは顔を上げた。

「じゃあ、蒼、行ってくるね」

「いってらっしゃい」

玄関までお母さんを見送った。

扉が閉まる音とともに、しーんと静まり返るお部屋。

あの日から幾度となく1人で過ごしてきたから、もう1人は慣れてる。

寂しいなんて思わない。

ただ思うのは、後悔ばかり‥‥‥。

私は、リビングに戻ると軽く朝食をとった。

それから、身支度を整えるとお母さんと同様棚の上に置いてある写真に向かって手を合わせた。

「‥‥‥お父さん、行ってきます」

スクールバッグを肩にかけ靴を履くと、ゆっくりと扉を開けた。

少し錆び付いた金属製の階段を降りて、スマホのマップアプリで何度も覚えた道を歩く。

辺りには、たくさんのお店や大きなビルが建ち並んでいて、たくさんの人で行き交う。

私と同じように制服を着た学生やスーツ姿のサラリーマンの人たち、自転車に小さな子供を乗せて走る主婦の人にスマホを片手に歩いている人たちなど。

とても賑やかな町で、私はまだこの町に馴染めずにいる。