「‥‥‥もう、ここにはいないわ」
お母さんのその言葉に一気に胸が騒つく。
「それって、どういうこと?」
不安な気持ちで訊ねると、お母さんは悲しい表情のまま本当のことを教えてくれた。
「病院に運ばれたときには、もう天国へと旅立ってしまったの」
‥‥‥天国。
それは、お父さんが亡くなったことを意味していた。
「そんなぁ‥‥‥」
涙がとめどなく溢れ、ぽたぽたとシーツに落ちる。
信じたくない。
お父さんがいないなんて、そんなの信じたくないよ。
さっきまで、隣であんなに楽しそうに笑ってくれていたのに。
私の頭を優しく撫でてくれていたのに。
もう、お父さんがいないだなんてそんなの嫌だよ‥‥‥。
「うわぁぁぁぁ!」
泣きじゃくる私をお母さんは優しく抱きしめてくれた。
「ごめんね、蒼。お父さんがいなくなって悲しいよね、辛いよね‥‥‥お母さんだって悲しいよ‥‥‥」
私の背中を優しく摩ってくれる。
でも、その手は僅かに震えていて、私はその時、お母さんの泣いてる顔を初めて見た。
きっと、私のせいだ。
お父さんが亡くなってしまったのも、お母さんを悲しませてしまうのも、私が原因でこうなってしまったんだ。
私が『水族館に行きたい』なんて我儘を言わなければ‥‥‥。
あの時、私が足を踏み入れていなければ‥‥‥。
お父さんがいなくならずに済んだかもしれないのに。
お母さんを悲しませずに済んだかもしれないのに。
悪いのは、全部、私のせい。
ますます涙が止まらなかった。



