「蒼ちゃんのせいなんかじゃないよ。蒼ちゃんは、なにも悪くない。だから、自分を責めないで」

泣き崩れる私を男の子はそっと包み込むように優しく抱きしめる。

「‥‥‥私のせい、じゃないの?」

「そうだよ。誰がなんと言おうと蒼ちゃんのせいじゃないよ。悪いのは、信号無視して突っ込んで来た車。だって俺、見てたから」

見てた‥‥‥?

そこで、私はなにかを思い出し顔を上げた。

「じゃあ、さっきの声ってきみだったの?」

ーー『蒼ちゃん! 今すぐその場から離れて!』

あの声は、きみなの?

「うん。蒼ちゃんをなんとしてでも助けたかったんだ」

その言葉で、涙がますます止まらなくなった。

きみとは初めて会うのに、私のこと助けようとしてくれたり、そして私のところに駆けつけて抱きしめてくれる。

きみは、とても優しい。

「ありがとう」

私は、男の子の背中に腕を回して涙でぐしゃぐしゃになりながらもお礼を伝えた。

すると、その男の子はさらに強く抱きしめ頭を優しく撫でてくれた。

ーービュンッ。

その時、強い風が吹いて近くに咲いていた桜の花びらが舞い上がった。

ひらひらとピンク色の花びらが降る。

まるで、私たちを明るく照らすかのように。

儚くて美しい景色だった。