桜の花びらが降る頃、きみに恋をする


7年前のあの日の出来事を琉輝に伝えた。

「要するに、お前と蒼ちゃんは昔、会ってたことになるんだよな?」

そう確かめる琉輝に俺は頷いた。

「うん。でも‥‥‥」

「でも?」

なにも知らない琉輝は聞き返す。

「蒼は、お父さんを失ったショックで覚えてないんだ。事故直後のこと」

そう伝えると、琉輝が驚いたことが分かった。

俺は、父さんが言っていた言葉を琉輝に伝えた。

「無理に思い出させようとすると、かえって蒼を傷つけてしまう可能性があるんだって。だから、このまま思い出せないままでいるのも1つの案って」

「‥‥‥んだよ」

「えっ?」

次に、聞き返したのは俺のほうで‥‥‥。

「なんだよそれ! 蒼ちゃんは、なにも知らないままでいいってことなのかよ⁉︎」

「でも、そうするしかないんだよ。蒼を傷つけないために」

結局は、俺が蒼を傷つけてしまっているけれど‥‥‥。

「お前はそれでいいの? 蒼ちゃんは知らないままでいいの? 本当は、思い出して欲しいと思ってるんじゃねえのかよ⁉︎」

琉輝の言葉は、まるで俺の心を読んでいるかのようにずさりと刺さった。

俺は、ずっと考えないようにしてた。

蒼はなにも知らないままで、また1から始めればそれでいいって思ってた。

でも、そんなのすぐに無理だった。

蒼が事故直後のことを覚えていないことを知る度、心が痛かった。

蒼と過ごす度、心がとてももどかしくて苦しかった。