【優乃side】



「土曜日、あいつと遊んでただろ?」


いつものようにエントランスで待ってくれていた翔ちゃんが「おはよう」よりも先にそんなことを言った。


あいつ……?

土曜日、わたしは伊月先輩と一緒にいたけど、伊月先輩のことかな?


翔ちゃんを見つめると、壁に預けていた背中を起こしてわたしにまっすぐ向き直る。



「黒い車がマンション前に停まってるの見たから」

「うん、伊月先輩とテーマパークに行ってきたよ。翔ちゃんにもお菓子買ってきたから、学校で渡すね」

「………優乃は、あいつのこと……」

「どうしたの?」

「……なんでもない。行くぞ」

「うん」



一瞬だけ暗い顔をした翔ちゃんだけど、すぐに歩きだすからわたしも歩き出した。

不機嫌なのかなんなのか、ちょっと歩くのが速い。


考え事でもしているのかな。

翔ちゃんのほうがもちろん足が長いから歩幅も違う。

追いつけない……。



「翔ちゃん……」