蛍は可愛らしい女の子だった。
 いじめられているなんて思えない、活発で明るい少女。
 もしかしたら素直でいられる透の前でだけ、そんな姿を見せていたのかもしれない。けれど、透にとっては、引っ込み思案な自分を新しい世界に引っ張っていってくれる憧れの対象だったのだ。





 そんな蛍を。

 僕は。





 その日も、透は蛍に誘われて外に出た。

『透、川に行こうよ』

 姫沙羅の葉がかすかな風にそよぐ縁側で本を読んでいた透の手を引いて、炎天下を走り出す蛍。少年向けの冒険小説は、パタタッと軽い音を立てて茶の間の畳に放られた。

 その渓流は、ほたるび骨董店から歩いて三十分ほどの距離にあった。
 大人達には子供だけでは行くなと禁じられていたけれど、そんなに遠くもないし、たまに『冒険』に行くにはちょうどいい場所だった。特に暑い日の水辺は気持ちいい。

『冷たい……!』
『ほんとだね』

 清流の水は日光に温められることなくひんやりしていて、熱した河原の石に焼けた足の裏を冷やしてくれる。