嘘は溺愛のはじまり


「もうひとつ話があって」

「うん、なに……?」

「専務のこと」

「……え、っと、」

「ホントに一緒に住んでるんだ?」

「…………うん」

「付き合ってないって言ってたよな? それなのに専務の家に住んでるって、無理があると思うんだけど?」

「……」


でも、それが真実で。

伊吹さんは、困っていた私を保護してくれただけに過ぎない――そう考えて、胸がチクリと痛む。


「バレたらきっと面倒なことになる」

「うん、分かってる……」

「特に総務部は気を付けた方が良い」

「え、総務部……?」

「秘書課とは仕事上の関係性も深いし、若月の仕事のポジションを狙ってるヤツもいる。用心するに越したことはないって事」

「……うん、分かった。ありがとう」

「何かあったら相談して。力になる。あと……」


そこで一度言葉を切った奥瀬くんは、私の目をじっと見つめていた。

彼の焦げ茶色の瞳が、私を射貫くように……。


「専務のことも。泣かされたら、俺んとこ来い」

「……泣かされたり、しないよ。篠宮専務はそんなこと、しない」

「どうだか」


しないよ。

だって、伊吹さんの心は、はなから私には無いから。

だから、もし私が泣くとしたら、それは伊吹さんに何かされたからじゃなくて、私が勝手に悲しくなってるだけだ。