嘘は溺愛のはじまり


――ふぅ、と息を吐く。

楓さんに家まで送ってもらって帰宅した後、私はソファに深く沈んだまま、出会いから今日までのことを思い出していた。

気付くと頬には涙が流れていて。


「……っ、」


静かに流れ出した涙は止まることなく、次第に嗚咽混じりの涙へと変わる。


――苦しい。

こんなにも、好きなのに。

こんなにも、近くにいるのに。

心を寄せるあの人には、この想いを伝えることすら、叶わない。

想いを伝えてしまえば、きっとこの関係が終わってしまうから……。


こんな風につらい思いをすることは、同居を決めた時から分かっていたはずだ。

だから私がいまこんな風に涙を流すのは、間違っている。

でも……分かっていても、どうすることも出来ない。

理性と感情は時として別物で、理想と現実だって、当然のように同じではない。

言い訳でしか、無いけれど……。


しばらく泣いてふと時計を見ると、いつの間にか時計の針は9時過ぎを指し示していた。

泣きすぎて、きっと目が腫れてる。

こんな顔を見せたら、優しすぎる伊吹さんはきっと心配をするだろう。