嘘は溺愛のはじまり


気になって、私は彼の視線を追う。

そこには、一件の小さな花屋さんがあった。

夜の9時を過ぎていると言うのに、未だ煌々と灯りをたたえていて、閉店の気配はない。

店前の道を少し行った界隈はスナックが多い。

花を飾るお店も多いだろうし、お気に入りの女の子に花を贈る男性も多くいるはずだ。

ここに店を構えるあの花屋にとっては、恐らく夜のこの時間がかき入れ時の時間なのだろう。


彼は、その花屋でせっせと働いている女性を、優しい瞳でじっと見つめていた。

花屋のその女性は、とても綺麗な女性だった。

長い髪をひとつに束ね、エプロンをして、オシャレなレインブーツを履いている。

いかにも花屋らしい格好。

それでも、彼女の美しさは全く損なわれない。

窓際に座る彼は、とても熱心に彼女のことを見つめていた。


ふと、こちらのカフェの方に顔を向けた彼女が、にっこりと微笑み、ヒラリと華麗な仕草で手を振る。

それに気付いた窓際の男性が、やはり口元にやわく笑みを浮かべ、優しい表情で小さく手を振り返した――。