嘘は溺愛のはじまり


「結麻さん……」


伊吹さんはおもむろに私の手を取り、来客用のカップを洗い終えた私をソファへといざなった。

伊吹さんもすぐ隣に腰掛ける。

私の手を、優しく握ったまま……。


「あのね、結麻さん。結麻さんがさっき母に言ってくれた言葉……俺と話を合わせてくれたんだって分かってても、嬉しかったです」


私は言葉を返すことが出来なくて、俯いてしまった。

まさか一時的な同居人がそんな良からぬ想いを抱いているなんて、伊吹さんは思いもしないんだろう。

もしそれがバレてしまえば、同居解消を考えるかも知れない。

いや、“考える”どころか、即解消かも知れない。

このまま、話を合わせただけだと言うことにしておこう、……私はそう強く決意した。


「母は、時々ああやって不意打ちで訪ねて来るんです。あの様子だと結麻さんのことも気に入ってしまったようだし、俺がいない時も来るかも知れません」

「えっと、嫌われなくて安心しました。いつ来ていただいても、私は大丈夫です」

「うん。……あー、いや、大丈夫じゃないかも……」

「え?」

「俺が一緒の時はフォロー出来るんだけどね……」