「……っ」

「行きましょう」


私の手を取ったまま、玄関へと歩みを進める伊吹さん。

私は突然のことに、どうしていいのか完全に分からなくなってる。


ど、どうしよう、伊吹さんと、手を、繋いで………………


私の動揺を余所に、伊吹さんは玄関扉を解錠して客人――お母様を招き入れた。


「突然来てしまってごめんなさいね?」


伊吹さんのお母様はとても上品で綺麗で、優しい雰囲気の方だった。

手を繋いで顔を強ばらせている私を見て「あなたが伊吹の大切な方ね?」と微笑んだ。

私はどぎまぎしながら伊吹さんをちらりと仰ぎ見ると、伊吹さんは私の目を見つめながら頬を緩め、大丈夫だよ、と言うように小さく頷た。

手は、離してくれないらしい……。


「は、はじめまして、若月結麻と言います。あの、伊吹さんとは……」


いくら“フリ”とは言え、自分から恋人ですとは言いづらくて思わず言い淀んでしまう。


「結麻さんとは結婚を前提にお付き合いをしていて、少し前から同居……いや、同棲かな、し始めたんです」


伊吹さんこともなげに答えたので、私は思わず気絶しそうになった……。