「簡単な家庭料理しか作れないから、私は一本あれば十分です。切れなくなれば簡易的に研ぎ直してるし……」
「……要らない?」
「えっと……」
篠宮さんはまたしても少し寂しそうな顔をして私を見つめている。
う……、なんだかとてもとても悪いことをしている気分になってしまう。
まるで私が篠宮さんを虐めてるみたいな気分……。
「じゃあ、もしいま持ってる包丁を買い換えるとしたら、どんなのを買いますか?」
「うーん、そうですねぇ……」
買い換えるなら、いま持ってるのと同じ三徳包丁だよね。
これ一本で、どうにでもなるから。
そう思って、私は「このタイプの、……もうちょっと買い求めやすい価格のものを選ぶと思います」とガラスケースの中にある三徳包丁を指さしながら答えた。
ガラスケースに入っている包丁はどれも、私が持っている包丁が三本は買える値段が表示されている。
包丁の善し悪しで素材の切れ味は変わるけど、私ごときの料理の腕では、きっと包丁の方が可哀想だ。
篠宮さんは私の答えに納得してくれたのか、「ふぅん、なるほど」と頷いている。
良かった、篠宮さんにあんな顔をされると、私も悲しくなっちゃうから……。



