目の前にある鍋は“重厚な鍋”と呼ぶに相応しい立派な鋳物の鍋で、展示してあるポップには『煮込み料理に最適です!』と書かれている。
憧れはするけれど、お値段が高すぎて私には買えそうにない。
「他に何か欲しいキッチン用品はないですか?」
「えっ。うーん、そうですね、特にはないかも……。必要な物は一通り持ってますし、無ければ無いでなんとかなりますし……」
私がそう答えると、篠宮さんはなぜか少し寂しそうな表情になった。
その表情の意味が分からない私は、なぜ篠宮さんが私をここに連れて来たのかと言う本当の理由ももちろん知らない。
「包丁とかは? いろいろ種類があるけど……」
篠宮さんはそう言いながら、今度は包丁のコーナーへと移動する。
ガラスケースの中にはたくさんの包丁が収められていて、その多くがどうやって使えば良いのか分からないような種類の包丁だった。
きっと料理人ぐらいしかこう言うの使わないんじゃないかな。



