「ありがとうございます、ではお借りします」
「はい。ああでも、今まで料理に使ったことがないので、道具とかが何も無いかも知れません」
「大丈夫です、台所用品は全部持ってきました。あ、でも篠宮さんのキッチンに私の私物を置いたら、邪魔、ですよね」
「ああ、いや、そうじゃなくて……」
篠宮さんは何かを考えるような表情をした後、「今日はこのあと、何か用事はある?」と尋ねた。
「いえ、特に何もないです」
「じゃあちょっと買い物に付き合ってもらっていいですか?」
「はい。あの、買い物って……」
「うん。若月さんのもの、もちろん置いてくれて大丈夫なんだけど、それ以外のものも揃えたいので、一緒に見て貰えると助かります」
「……はい、分かりました」
何が必要になりそうなのか篠宮さんと一緒にキッチンへ行ってみると、篠宮さんは本当にほとんど使ったことがないらしく、いくつかの食器とカトラリー、コーヒーマシンと電子レンジ、冷蔵庫があるだけだった。
専務ともなれば恐らく取引先との外食も多いのだろう。
そうでなくても、きっとデートとか……、と考えた所で、すぐに考えるのをやめた。
篠宮さんが誰かとデートしてる場面を想像すると、ちょっと絶望的な気持ちになってしまうから……。



