嘘は溺愛のはじまり


「結麻ちゃんはどんな食べ物が好き?」

「え、っと、そうですね、シンプルな味付けが好き、かな」

「あー、じゃあ、イタリアンとか? 塩とコショウとオリーブオイルが基本だもんね?」

「そうですね、イタリアンは好きです」

「うんうん、良いね。他は? トマト大丈夫?」

「好きですよ」

「セロリは?」

「あぁ、好き嫌い別れますよね。私は好きですけど」


楓さんは手を動かしながら、どんどん質問を投げかけてくる。


「結麻ちゃんは、料理するのは好き?」

「はい、好きなほうです」

「そっかぁ。で、何があったの?」

「……ええ?」


突然脈略のない質問が飛んできたけど意味がすぐには理解できず、見ていた楓さんの手元から、思わず私は視線を上げる。

すると、楓さんは調理の手を止めて、私をじっと見つめた。


「……あ、の、」

「だってあの荷物。普通じゃないでしょ? 一緒に住んでる人に、何かされた?」

「えっ……、あの、なにも……」

「じゃあ、なんで?」

「……」


言い方や声は優しくて、でも、やっぱりどこか有無を言わさない、誤魔化せない、確かな圧力が楓さんにはある。

これはもしかすると、観念しなきゃいけない感じだろうか。


「まさか、ネカフェで寝泊まりする気だった?」

「……」

「だめだよ、女の子があんなところで寝泊まりなんか。危ないから」

「……でも、」

「“でも”はナシだよ」


利用したことがないから、危ないかどうかは分からない。

でも、寝泊まりしてる人もいるって聞くし……大丈夫なんじゃないかと思うんだけど……。