嘘は溺愛のはじまり


楓さんの車が到着した先は、カフェ『infinity』の店先だった。

なんとなく、そんな気はしていたけど……。


「ごめんねー、今日は臨時休業なんだ。マスターがちょっと野暮用で」

「そう、なんですか」


その方が都合が良い、と思わず自分勝手なことを考えてしまう。

私がここにいることをマスターが知ったら、伊吹さんに連絡してしまうかも知れないから。


「……あの、それで、お願いって……?」

「あー、うん。ちょっと試食して欲しくて」

「私なんかで、大丈夫ですか?」

「カフェのスタッフはもう僕の料理に飽きちゃったのか、適当な褒め言葉しかくれないんだよね」

「え、それは、楓さんの作るお料理が全部美味しいからでは……?」

「……結麻ちゃん」

「はい?」

「ダメだよ? そう言うの」

「……はい?」

「褒められたら調子に乗っちゃうからね、僕」


そう言って楓さんは、ふふふっと笑う。

大人の男の人だけどほんの少し可愛い要素があるから、なんだか憎めない。

でもそれでいて、有無を言わさない何かがあって、芯の強さが感じられる。

少し、不思議な人だ。


「さーて、作るかぁ」


楓さんはエプロンをキュッと締め、グイと腕まくりをした。