――女のくせにたいした荷物を持たない私の引っ越しは、あっという間に終わってしまった。

大学進学のために東京の都心に住んで以来ずっと切り詰めた生活をしてきたので、衣類も必要最小限だし、その他は台所用品と日用品が少しあるぐらいだった。


篠宮さんが私のために用意してくれた部屋はとても広くて綺麗で、おまけに大きなベッドが備え付けられている。

セミダブルベッドで寝るなんて、初めての経験……。

今まで畳に敷き布団の生活しかしたことがなかったから、憧れのベッドの生活にドキドキワクワクしていることは篠宮さんには内緒にしておこう。


ほぼ片付け終えたところで部屋の扉をノックされ、「若月さん、ちょっといいですか?」と篠宮さんの声が聞こえた。

すぐに扉を開けると、優しい笑顔で微笑んでいる篠宮さんが立っている。

あたりまえなんだけど、そのあたりまえのことにまだ全く慣れない私は、目の前にある綺麗な顔にドキドキしてしまう。


「片付け作業中に、すみません」

「あ、いえ、ほとんど終わりましたから」


私がそう言うと、篠宮さんは「そうですか、早いですね」と少し驚いた表情で室内の方へチラリと視線を向けた。