「ん……」


寝返りを打とうとして、いつもと違う不自由さに、徐々に覚醒していく。

なんだか、やけに暖かい。

外はまだ真っ暗で、まだ起きる時間では無さそうだ。

目覚まし時計も鳴っていないから、もう少し微睡もう……。

そう考えて、もう一度寝返りを試みる。


「……あ、」


そうしてようやく、寝返りが出来なかった理由に思い当たる。

自分の身体に巻き付いた太く逞しい腕を見つけて、私は我に返った。


え、ど、どっ、どうしよう、なんか、抱き締められてる……!?


――確かに、一緒に、寝た。

それも、ベッドの、端と端で。

それなのに……。

しかし自分の寝ている場所を確認すると……明らかに私が伊吹さんの領域に越境していたのだった。


えええっ、うそでしょ……?

私、寝相悪すぎるんじゃない!?


さっきまで心臓がドキドキして、きっと顔が真っ赤だったに違いないのに、今度はサーッと青ざめるのが自分でも分かる。

じ、自分の領域に戻りたい……。

でも、後ろから抱き締められるように伊吹さんの腕が私に巻き付いているから、動くに動けなかった。


出張で疲れているであろう伊吹さんを起こしたくない。

でも、この状況は……正直まずい、と思う……。