「結麻さん……」


耳元で聞こえる伊吹さんの声が、スマホなんて言う機械を通してではなく、私の鼓膜を直接揺する。

こんなにも近くで。

もう、頭がおかしくなってしまいそうなぐらいの距離で。



「……あらあら。ふふふ……」



すっかり夢見心地で伊吹さんの腕の中にいたけれど……、お母様の声で、私はハッと我に返った。

よく考えたら、今日は伊吹さんのお母様が来ていたのだった。

伊吹さんの想定外のお帰りに、すっかり頭から抜け落ちていて……。


「……っ!」


慌てて伊吹さんの腕の中から抜け出そうと試みるけど、そんなに強く抱き締められているわけではないのに、なぜか伊吹さんの拘束は解けることがない。

それどころか、伊吹さんは私を抱き締めたまま「母さん、来るなら言っておいてくれないと」と私の耳元で話すものだから、私の頭はますますパニックに陥った。


「あ、の、伊吹さん……っ」

「ごめんね結麻さん。母が突然押しかけてきて」

「いえ、とても楽しかったので、それは全然、大丈夫です」

「おまけに、泊まるって……?」


そう言ってようやく腕を緩めた伊吹さんは、私の顔を覗き込んだ。

今までに無いほどの至近距離で目が合い、私のドキドキは更に加速する。

このままでは、そのうち私の心臓は壊れてしまうんじゃないだろうか。