「昨夜の電話で結麻さんが寂しそうだったので、急いで帰って来ました」
「あ、えっと……」
「俺の方がもっと寂しかったけど」
そんな風に甘く囁かれて、優しく見つめられて、私の心臓はもうとんでもない速さで動き回っている。
それなのに伊吹さんは私のドキドキなんておかまいなしに、柔らかく微笑んでいて。
伊吹さんは、絡ませていた私の手をそっと離した。
伊吹さんの熱が離れるのを寂しく思ってしまう私は、あまりにも愚かだ。
だけど――。
まるで私の思考を読んだかのように、次の瞬間には優しく抱き寄せられて……。
次の瞬間、額に、優しい熱を感じた。
「……っ!」
額に口づけられたのだと気づき、ますます私の鼓動が早くなる。
その熱はゆっくりと私の額から離れ、代わりに、ギュッと抱き締められた。
伊吹さんに与えられる熱は、どうしてこんなにも優しくて、暖かいんだろう……。
そう思ってしまって、切なく胸が痛む。
だって、私は、伊吹さんの何者でもない……。
「いぶき、さん、」
「うん」
伊吹さんに抱き締められている事実に、どうしたって心拍が上がり、息苦しくなる。
呼吸を取り戻そうと息を深く吸い込めば、伊吹さんの匂いがして……私の呼吸は楽になるどころか、更に苦しさが増した。
呼吸ををしたいのに、鼓動が激しすぎて、身体の力が抜けてしまう。



