『とくに用事があるわけじゃないんだけど、どうしても結麻さんの声が聞きたくなって……』
私の気も知らないで、とんでもない爆弾発言をしてくれる人だ。
ずるい。
そんな言葉、まるで本物の恋人同士みたいですよ、伊吹さん……。
『声、聞きたいから、なにか話して』
「ええ? そう言われても、あの……」
『……こっちに結麻さんを連れて行きたかったです』
今回の出張は社長と共に赴いている。
つまり、かなり重要な案件だと言うことだ。
社長と伊吹さんの秘書もそれぞれ同行しているから、どう考えたって私なんかが出る幕では無い。
『お土産、買って帰るね』
「あの、それはどうか、お気になさらず、」
『うん、俺が買いたいだけ』
「……っ」
スマホと言うデジタル機器の発明は、本当に偉大だ。
クスクスと耳元で伊吹さんが笑っている。
機械を通しているからいつもと同じ声ではないけど、それでもこうやって、普段は冷たいだけの小さな機械が、大好きな人の声を耳元に届けてくれる。
『……ひとりで、寂しくない?』
なんて酷いことを聞く人なんだろう。
寂しいに決まってるけど、そう答えられる立場にない私は、嘘をつかなければならない。



