「スモモ、どうかしたの?上の空だけど」

家族そろって夕食をとっていると、母が顔をのぞき込みながらそう言った。

「……ううん、何でもない。少し、考えごとしてただけ」

「そう? 何かあったら、相談してね」

「……うん、ありがとう。そうする」

『その日はきっと、来ないとは思うけど』と、心の中で放った言葉は、手作りのから揚げと共に噛み砕いて、飲み込んだ。

別に、家族が嫌いなわけじゃない。

むしろ好きだからこそ、本音を言えなかった。

理想のお姉ちゃんでいることで、みんなが幸せならそれでよかった。

でもヤマトくんは、それで私が苦しんでいると言っていた。

そうなんだろうか。

「……明日、ヤマトくんと少し話してみよう」

彼のことを知らないことには、交際するか否か決められない。

そう思った私は、携帯のアラームを少し早めにかけた。


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「それで? 俺の告白は、受け入れてもらえる?」

「……その、すみません。無理です」

「それ、地味に傷つくんだけど……。まぁ、この際いいや。君が言うんだ、考えてくれた結果なんだろうし。理由を聞かせてくれる?」

「……私、ヤマトくんのことを何も知らなくて」

また言葉を選びながらも、今度は自分の意思を込めて。

「……そんな友達とも言いがたい、曖昧な関係じゃヤマトくんの恋人していられないと思ったから、です」

ヤマトくんは、「まぁ、君にしては上出来だとは思うよ。言うならば、及第点って言うところかな」と、言って私の頭を撫でた。

「じゃあ、俺と友達になってよ」

「……はい?」

また、意外な返答に間抜けな声が出てしまった。

「それからでも付き合うか、付き合わないか決めるのも悪くないでしょ?」

私は、いくつか気がついたことがある。

ヤマトくんは、諦めが悪い頑固者だと言うこと。

そして、私の言葉をちゃんと聞いてくれて、その妥協点を見つけて接してくれる、優しい人だと言うこと。

「諦め悪くて、悪いな。俺、それくらいスモモちゃんのこと好きなんだ」

「……どうして、私なんかを……?」

昨日か、疑問に思っていたことを問うと、彼は私の額を指で小突いた。

「それは、秘密だな!」

と、イタズラ好きな少年のように笑いながら言った。

あれ、この笑顔をどこかで見たことがある……?

おぼろげな記憶をたぐり寄せるけれど、その記憶は霞がかかったように、鮮明に思い出すことができなかった。