「スモモはお姉ちゃんだから、我慢できるよね?」

「スモモちゃんは、とてもいいお姉ちゃんね!」

耳にタコができるほどずっと聞いてきた、「お姉ちゃん」という言葉。

「……そんなこと、ないのにな」

その実私の心の奥底で燻っている、とても人には言えないドス黒いそれは、私の心を蝕む。

『どうして、妹ばかり』

『どうして、私ばかり』

そんなことばかり考えてしまう自分に、自己嫌悪する毎日を送っていた。

……その気持ちを、吐き出してしまえば楽なんだろうけど、悲しそうな両親や妹の顔を思い浮かべてしまうと、どうしても吐き出せずにいた。

そんな時だった。

「なー。そうやって自分偽って、苦しくねえの?」

そんな言葉を、投げかけてきた男がいた。

「……何のこと?」

「何のことって、お前のことだよ」

それは、そうだ。明らかに今、この言葉は私自身に向けられている。

「……ヤマトくんには、関係ないと思います」

私がこのドス黒い気持ちを隠すことで、人に迷惑をかけている訳でもない。

むしろ隠すことで、この人間関係をうまく円滑にまわしていると言っても過言ではないはずだった。

「関係あるんだよね。周りの奴らが気にしなくても、俺には迷惑がかかってるんだけど?」

「……はい?」

クラスメイトであれど、アイドル的な存在のヤマトくんにそう言われるとは思わず、間抜けな声を上げてしまった。

そもそも私と彼の関係は、あくまで挨拶をする程度の事務的な関係だったはずで、それとは無関係な会話をしたことは無いに等しかった。

「……あ、あの。ヤマトくんとは、あまりお話したこと、ありませんよね?」

「まぁな」

「……私、ちょっとどうしてそう思ったのか、分からなくて。教えて貰ってもいいですか?」

私は、不安になりながら言葉を紡ぐ。言葉を選んで、相手を傷つけないように。

「……本当、鈍いんだな」

その時強い風が吹いて、揺らめくカーテンに踊らされながら桜の花びらが舞った。

「お前が、好きなんだよ。だから、他の奴らが分からなくても、苦しんでるお前を助けたいと思った」

彼の頬が舞っている花びらと同じ色に染っていて、私は思わず見とれてしまった。

「……まぁ、返事はいつでもいいからさ。ちょっと、考えといて」

「……はい」

そう、返事したのはいいけれど、人生で初めて告白された事実に驚きすぎた私は、そんな返答しかできなかった。

ヤマトくんが去った教室に先生が入って来て、掃除を命じられた私は、上の空で箒をかけていた。