「っ……鳥さんをゆるしてあげてください…わたし…言いません……」

絞り出すような声でそう言ったのは、他でもなくマリーだった。
しかし口裂けはマリーを睨みつけて言った。

「嘘をつくな!人間の大人…人間国の城の者たちは嘘つきばかりだ!何度騙され、我らが傷つけられたか分かるか!!お前も人間なら、お前だって信じられるものか!さあ、早急にこの人間の記憶を!!」

大鳥や口裂けがマリーを非難し続ける中、青年は考えるようにしてから言った。

「…娘、今日のことを覚えていてどうする?勘違いとはいえ、お前は攫われたのだ。このようなこちらの不手際で、人間たちと争う気はない。この事がそちらに知れれば、争いは避けられない。」

マリーはまだ怯えている。しかしすでに心は決まっていた。

「わすれたくないんです…お兄さんに会ったこと…。きっとだいじなことだから、忘れちゃいけないことだって思うから…。だれにも…言いません……お兄さんが…言わないでほしいって言うなら……」

「『お兄さん』……」

彼の顔がふと緩んだ。
異形たちも不思議そうに顔を見合わせた。

「お兄さん…にんげんじゃ、ないんでしょう…?みんながこまるなら…わたし、言いません…このひとたちも、わたしに何もいたいこと、しなかったもの…」

マリーはこの異形たちを悪いものには思えなかった。

勘違いはしていたかもしれないが、現に彼らはマリーを傷付けようとしていない。
大人たちが街から出ないよう言った理由も、見たことが無いものへの怖さからかもしれないと思った。

「…お前も、私と同じよう平和を望むか…?」

彼は真剣な眼差しでマリーを見つめて言うので、マリーも真剣に答える。

「へいわ…??わたし、だれかが、いたい思いをするのは、いや…!あなたも、そこのひとたちも…」

彼はマリーをしばし見つめ、そして頷いた。

「…眠れ…」

呟きと同時に彼の赤い眼は一瞬だけ黒く変わる。
マリーは次第に眠りに誘われていった。

「…約束だ、娘。誰にも……」

「言い…ません……や く そ く ……」

彼の呟きにマリーは返し、そのまま意識を失った。


次に気付いた時、マリーは街の隅で座って眠っていたらしい。
掃除に出たマリーを探しに来た孤児院の者が、広範囲に清められた地面に驚いていたが、他にあった変化に気付いた者はいなかった。


(…わたし、いつかあのひとのちからになるわ…!だれもつらい思い、してほしくないもの…!!)

マリーの思いは叶えられるのか…

そして何年も経ってから、マリーは突然の運命に翻弄されることとなる…