異形二体が頭を捻りながらそんなことを言っているうちに、マリー達の背後から足音がした。

マリーは震えて体も動かせず、背後の相手を見ることも出来ない。しかし強い存在感を感じた。
二体は気付き振り向いて、すぐさま頭を垂れる。

「ご苦労だったな。人間たちには気付かれていないか。」

来た相手は若い男らしい。
しかし気高さと気品を感じさせる雰囲気を醸し出している。

「はい。…お帰りなさいませ、人間共はいかがだったでしょう?」

「街の外には城の兵どもしかいない様子。人間の王は話し合いを持つ様子もない。このままでは一方的にこちらが不利だ。」

マリーは振り返ることもできないまま、震えながらじっと彼らの話を聞いていたが、やはりそれだけで済むはずはない。

「…何だ、これは?」

若い男が気付いたらしく、男の声がしたと同時にマリーの体は突然、優しい光の霧に包まれたまま宙に浮いた。

「っ…や……」

声も出ないほど怯えていたマリーは、不思議な力に動かされて対面したそのとき、ようやくその姿を見た。

小さなマリーよりも倍ほどの背丈に、赤色に光る眼に青白い肌、紅い唇から覗く鋭い牙、金の二本角とサラサラとなびく銀髪…

恐ろしさを感じていても分かるほどの端整な顔に、漆黒の上下を身に纏った青年。
人間ではない姿にもかかわらず、マリーは思わず見とれてしまった。

「人間の子供ではないか!この娘はどうした!?」

マリーの周りの霧は晴れ、地にそっと降ろされた。
彼は端整な顔を歪め、部下らしき異形たちに問う。

「人間…!?俺ハ、人間ノ子供ナド、見タコトガナカッタモノデシテ…食糧ノ代ワリニト……知ラナカッタノデス…!!ドウカ、オ許シヲ…!!」

「…ということは、街から攫ってきたのか!人間たちに見られていたら大事になる…!!」

青年は更に困ったように顔を歪め、大鳥は不思議な力を持つその彼に、地に擦り付けるほど低く頭を下げて許しを請う。

「…見られていたらその者たちの記憶を…それに、この娘の記憶を消さねば……」

彼は顔を歪めたまま、呟くようにそう言った。