場内指名。初めて来店した客が私を見て呼んでくれたんだ。


上手くやれば今度指名で戻ってくる。


男の人は、金の成る木。


「初めまして、桜です。場内ありがとう」


通された席に座る前に、しゃがんで手を延ばして両手で握手。


このバカバカしい遣り取りも、店のマニュアル。


ただこれだけの事ににんまりする客がいるのに最初は驚いたっけ。


「いや……えっと。君、可愛いね。いくつ?」


「ちょうどハタチになった所です。
お酒デビューしたから、今鍛えてるんですよ~。
まだまだ弱いけど。あなたは?」


笑顔で男を値踏みする。


染めていない髪の毛は、ワックスで少しだけ遊ばせていて、切れ長の二重の目に薄い唇。


グレーのタートルニットに、焦げ茶色のコーデュロイのパンツとシンプルだ。


でも、水割りを傾ける腕についてるのはオメガの時計。


連れはくたびれた親父ばっかりだから、しがない会社の集まりだと思ってたけれど…………。


嬉しい誤算。


「俺?俺は三十四歳。親父だな。あ、なんか呑む?」


しかもちゃんとドリンクを自分から薦めてくれる。


……戻ってくれば良い客になりそう。


内心でにんまりとほくそ笑む。


「ありがとうございます!何かカクテルでお勧めあります?」