ブーツのコツコツという音と共に、車内を覗き込まれる。


「桜、お疲れ。後ろに乗って」


少し躊躇った後、桜はゆっくりと乗り込んだ。


「どこに行くの?」


尋ねる声に運転する友人が答える。


「署まで来てもらって良いかな。
限りなく安全だと思うから安心していいよ。
疲れてるのに夜中にごめんね」


エコの為に薄暗い署内の一室に、俺と桜が向かい合わせに座る。


よくある無機質なテーブルに折り畳みのパイプ椅子。


「頼みたいことって?」


「簡単な事だよ」


俺と桜の前にお茶を置きながら友人が言う。


「お店で出してるお酒を、持ってきて貰いたいんだ」


「……中身を、調べるの?」


「そうしたい。ある筋から情報が入ってね。どう捜査していこうか迷ってたんだ。
色々事情があって、表向きには動けない。
もし何か検出されれば、行動に移せるんだ」


真っ青な顔で唇を噛む桜の姿が痛々しい。


聡明なこの子の事だ、何かを察して思い出してしまっているに違いない。


守ってやりたいという想いがムクムクと沸き上がる。


今、ここで抱きしめられたら…………。


ゴツリ、と重い音と共に欲情を吹き飛ばす。


……十歳以上も離れているんだぞ。