フヘンテキロマネスク


その優しさが、今の私には酷く沁みて。


涙が滲むと同時、私は本当は保科くんに『泣いてもいいよ』って言われたかったのだと気付く。


保科くんはいつも、辛い目や痛い目にあっても泣かない私を見て『真咲は強いね』って言うだけだったから。



強いねって言われる度に、弱さを見せられなくなっていた。



「……私ね、保科くんに名前呼ばれると強がりになっちゃうんだよね」



気づけばひとりごとのようにポツリと言葉を吐き出していた。唐突に話し出した私に鈴本くんは特に驚くことも無く、ぼんやりと前を向いたままだ。



「私この名前がコンプレックスだったんだけど、保科くんが『真っ直ぐに咲き誇るってぴったりだね。強くて凛としたイメージにあってる』って言ってくれて、はじめて自分の名前好きになれたの」

「……」

「でもそれと同時に、そのイメージを崩しちゃいけない、弱いとこなんか見せられない、って思うようになっちゃって」



鼻をすする音だけが静かな踊り場に響いて、それでふと我に返る。