フヘンテキロマネスク


だから『大丈夫』、そう言おうとしたのに、さっき泣いてしまって気持ちが緩んでしまったせいなのか、意地を張る気力はもう残ってなくて、言葉にすることはできなかった。



「泣きたいなら泣けばいいよ」

「……もう泣かないよ」

「無理に我慢してないんならそれでもいいけど。でも涙は感情の代弁みたいなものだと思うから。だから無理に押し込めたらずっと苦しいよ。我慢してるなら吐き出した方がいい。ガス抜きも時には大事だよ」



私に向き合って座っていた鈴本くんが、徐に立ち上がって隣合うように座り直す。



「泣き顔見られたくないんだったら見ないし」



その言葉通り、鈴本くんは真っ直ぐに前、階段の中段あたりを見つめていた。そこには何もないのに。