「……どうしようもない?」

「だって、どこが好きかもわかんないくらい、ぜんぶが好きだったってことじゃないの」

「…………」

「そんなん、上書きしきれるわけない」



言葉を返す隙もなく、鈴本くんがふい、と顔を逸らして前へと向き直す。……なぜか、その瞬間見放されて置いてけぼりにされた気分になってしまった。


なんだかんだで、頼っていたのは確かだったから。


弱音を吐けたのも思いっきり泣けたのも鈴本くんがいたからで、保科くんのことをはやく吹っ切れるようにそばにいてくれた鈴本くんに、私は甘えていたのかもしれない。



「……っていうか、そもそも思い出とか上書きしても意味なかったのかもね」

「え?」

「思い出は上書きできたとしても、感情も一緒に上書きされてくわけではないでしょ」



茜色の空を見上げてぼそりと呟く鈴本くんの横顔を、私はただ1歩引いたところで見るしかなくて。



その顔を見ているとまた、いたたまれなくなってしまった。