「ご、ごめんって。でも日菜が変なこと言うから」

「変なことって?不埒?でもさ、修学旅行の最中にふたりで夜に密会するって響きがもうあれじゃん。やらしくない?」

「……もう、日菜が思ってるようなことないから」



私の返答に日菜は「えー?」と疑わしげな声を出す。だけど、これは本当なんだ。



渚と付き合い始めてもうすぐ3ヶ月。


――――私たちはまだ、キスすらしていない。



保科くんと比べるわけじゃないけど、保科くんとは付き合って1ヶ月くらいでキスしたから、いつまで経っても手繋ぎ止まりなことにすこし不安になる。


……でも、今日の夜は会えるし、修学旅行っていう特別な日だし、すこしくらい期待してもいいかな。


別に欲求不満とかではないけど、やっぱりせっかく想いが通じあってるからにはキスしたい。これは正常な思考だと思うんだ。



そう自分に言い聞かせていれば、リフト降り場はもうすぐそこまで迫っていた。インストラクターの人に教えてもらったとおりに、セーフティーバーを上げて、リフトが目印のところまできたのを確認して立ち上がる。そうすればそのままの流れでゆっくりと滑り出した。……上手く止まれなくて転びそうになったけど。


それからは日菜と苦戦しながらも、インストラクターさんや同じ班の子に助けてもらって、なんだかんだで楽しんでいた。


ほんのすこしだけ、渚と滑れたらな、なんて思ってしまったのは内緒だけど。