「ごめん、他に好きな人ができた」


唐突に切り出されたその言葉の先は、言われなくても簡単に察することが出来た。


そもそも人気のない仄暗い踊り場に呼び出されたときから、薄々いやな予感はしてたんだ。最近前より素っ気なかったし。


……とはいえど、面と向かって言われるとなかなかしんどい。


彼にとって私はもう不必要な人間なのだと、そう思うと胸の奥がズキズキと痛んでどうしようもなかった。



「…そ、っか」


わかりやすいくらいに、声が震える。そんな自分が嫌で、叱咤するように拳をぎゅっと強く握りしめた。手のひらに爪が食い込むほどに。



「……うん。ごめんね、真咲(まさき)


ごめんね、って思ってるなら、今その名前を呼ぶのはやめてほしい。


男みたいで嫌いだった名前だけど、彼に呼ばれるときだけはその名前が好きだと思えた。だからこそ今呼ばれると辛い。


もう呼ばれることもないのだと思うと寂しくて虚しくて、心にぽっかりと大きな穴ができてしまったみたいだ。