「……佐伯、俺らなに見せられてんの」

「……知らね。もうほっとこ」



あずりん先輩は二本目のビールのプルタブを開けて、もりりんは残りを飲み干した。



「でもまぁ、よかったわ。今になって知るお前らの高校生活が、ちゃんと楽しそうで」

「なに、急に」

「だってよ、教師としてはやっぱ楽しい高校生活送ってほしいからさ。あの頃のお前らがそういう時間を過ごしてたなら、それだけで俺は教師になった甲斐があるってもんだろ」




楽しい、高校生活……




「ん?楽しかったんじゃねぇのか、高橋」

「、、…」



一瞬言葉に詰まったのは、一気に蘇る感覚がしたから。


だからこそ顔を上げて、もりりんを見て、しっかり答える。




だって、私の高校生活は……






「楽しいことだらけの、3年間でした!」










思い出は、今もまだ鮮明に記憶の中にある。



振り返れば、今もすぐそこにあるみたいに、キレイに蘇ってくる。



たった1度の高校生活。



子供だから真っ直ぐで、必死で、純粋で……



恋は生活の中心で、友達は、毎日を支えてくれていた。



何度も何度も心が折れて、何度も何度も起き上がってはまた折れて。



そんな風にキラキラしていたあの頃には、もう二度と戻れないけれど。



いつの日か、もっともっと大人になって、本当におばあちゃんになったとき。



そのときはもう、思い出も、淡く色を変えているかもしれない。



色褪せて、薄れているのかもしれない。



それでも私は、やっぱり忘れない。



出会ったのは、横顔が素敵で、髪の毛がフワリと揺れる男の子。



恥ずかしがり屋で、ヤキモチ妬きで、言葉が少ない男の子。



たまに強気で、でも穏やかで、優しくて……



私にたくさんの気持ちを教えてくれた、男の子。



そんな1人の男の子に、恋をしたこと。



恋をする私の周りには、たくさんの友達、先輩がいたこと。



たくさんの人たちの優しさに気づけた、青春時代。



振り返る、その時も。



隣にはいつも、大好きな男の子が、きっといるから。





「ママー」

「ママ、俺のだし。」

「、…」

「やんねーし。」

「、、…」





子供みたいに子供とじゃれる、大好きな男の子が、



いつも、隣に。







□■おわり■□

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