「でも、全然、見えたこと、ないんだけど、」
「、……ッ、、…」
「ぉ、……え、……」
泣きたくなんかないのに、勝手に出てくる涙が止まらない。
泣きすぎだって、また、笑われるかもしれないけど……
でも今のは、フワリくんが悪い。
こんなに幸せな気持ちにさせちゃう、フワリくんが絶対に悪い……
「…、」
「、……ッ、、、…」
「ななちゃん、ちょっと、こっち、来て、」
「、…」
手を引っ張られて、渡り廊下を歩き出す。
泣いている顔を誰にも見られないように、下を向きながら引かれるまま歩く。
誰かがフワリくんを呼んだけど、それでも足を止めずに、フワリくんは歩き続ける。
恋をしたあの頃の私は、なにも望んでいなかった。
見ているだけで満足な、そんな幼い恋心。
近づく度、知っていく度、想いはどんどん大きくなって、
もっと会いたくて、名前を呼んでほしくて、近づきたくて、傍にいたくて、少しだけでも、触れていたくて……
見ているだけなんかじゃ全然ダメって、初めての感情を教えてくれた、そんな恋。
結局、なにも出来なかった気がするから。
全然、努力もしなかった気がするから。
目の前にある幸せは、努力の結晶なんかじゃなくて、やっぱりただの奇跡かもしれない。
だけどこれからは……今からは。
この幸せが続くための努力なら、私にだってできるはずだから。
言葉を紡ぐ努力を、これから先の未来の自分に、約束する。
だから。
涙を拭って、前を向いて、渡り廊下を抜ける。


