「いっつも彼女がつけてる香水で、女もんなんだけどね」
「…ハイ、」
「いい匂いだから好きだーって言ったら、半分くれた」
「じゃあ、彼女とお揃い、なんですね」
「だね」
壁の下に貼り付いて取れないガムテープを、山本先輩も一緒になって、剥がしてくれる。
「よかったね、ツインテールちゃん」
「、ぅん?」
「大ちゃんと、幸せそうで」
「、…」
ビリビリビリって、山本先輩は1枚のガムテープを剥がすと、すぐ、立ち上がった。
「あいつ分かりにくいけど、いーやつだから」
「、…」
「大事にしてやって」
立ち上がった山本先輩を見上げて、大きく、頷いた。
「じゃーね」
「ハイ、」
山本先輩が、ドアに向かって歩き出す。
「雄介ー、学食行こー」
「うぃー」
誰もいなくなった、多目的室。
立ち上がって、窓の外を見る。
何も変わらない、いつもと同じような景色が見える。
見慣れているような、いないような、そんな景色。
「……」
私はまだ、入学して1年も経っていないから。
この景色だって、そんなに見慣れているわけじゃない。
だけどフワリくんは、あと数ヶ月で卒業してしまう、3年生。
私とフワリくんがこの校舎で一緒に過ごした時間は、たった1年。
その1年間だって、ずっと一緒にいたわけじゃない。
もっと一緒に、過ごしたかった。
この学校で。
同じ時間を……もっと共有したかった。
たった1年。
私とフワリくんの重なった高校生活は、……たった1年だけなんだ。