「それでね、フワリくんが鉛筆で下書きしてて」
「もううちら、なぜか緊張しちゃって!」
「そしたらねっ、急にフワリくんがこっち向いて!」
「そ、それで…?」
うぅ……絶対羨ましいことだ。
「うちらのほう見て、聞いてきたの!」
「な、なんて…?」
も、この時点で羨ましい……
「「この線、曲がってる?って!」」
2人同時に出した声に、私は机にうな垂れた。
私が仕事もなく帰宅しているとき、そんな夢のような世界にいた2人が羨ましすぎる。
あぁ……私よチリとなれ。
「でね、急に声掛けられて、うちら超焦って」
「取り合えず答えなきゃって思って、よく見もせずに“曲がってません!”って答えたの」
「そしたらね!」
またこの展開……
「…そ、そしたら?」
きっと私はまた、うな垂れるんだ…
「「曲がってんじゃん……って、笑ったのーーー!」」
グハッ
笑ったフワリくんを想像するだけで胸が撃たれるのに、その場にいたら私はどうなっていたんだろうか。
「よく見たらほんとに曲がってたんだけどねー」
「そのあとすぐに旗係に行くって、3-2に戻っていった」
私が帰宅したあとに、フワリくんは教室に戻ってきてたんだ……。
なんかもう、悲劇のヒロインになった気分……
「下書き描く姿超真剣でね、写真撮ってななに送りたかったけど、さすがに無理だったやー」
超真剣な顔……
見たい……
「でもなんかあの人、ふにゃふにゃしてんの、常に」
「絵を描くときはシャキッとしてかっこよかったけどねー」
世間ではそれをかっこいいギャップという気がして、そんな姿を誰にも見せたくないとすら思う。
……なんて。
私が見たことのない姿なんだけどね……。


