「あ、あの、今日はなにかすることって…」
「んー、まだ始まったばっかだしねぇ、どこも人は足りてそうだし」
あずりん先輩、ショートカットがすごく似合う。
女子には珍しく、カーディガンじゃなくてパーカーを着ている。
黒の、パーカー……
「佐伯ー、大ちゃんどこ行ったー?」
教室の中から、あずりん先輩に向けて男子が叫ぶ。
男子は『大ちゃん』で、あずりん先輩は女子でも『すぐる』。
「旗係の1年も集まってんのに大ちゃんだけいねぇんだけどー」
「もー、私はすぐるの保護者じゃないんだって!つーかあいつこの先絶対ちょくちょくいなくなるから、この際その意味わからん落書きそのまま旗にしちゃっていんじゃない?私雑用だけどいちいちすぐる捜しに行くの嫌だよ?つーかそんな雑用お断わり!」
そ……その雑用、是非頼まれたい!
「だいたいさぁ、あのバカは男のくせにいつまで経っても自分の、………あ。」
「、…?」
あずりん先輩の口が、……急に止まった。
目線が……私の後ろで固まっている。
いるんだ、後ろに。
絶対、
私の後ろに、
フワリくんがいる……
どうしよう、
どうし、よ……
「…、」
ゆっくり見上げた後ろには、……コーヒー牛乳を飲む、フワリくんが、いた。
片手はポケットにつっこんで、もう片手はしっかりとコーヒー牛乳を握ってる。
近すぎるその距離に、私の心臓は測定不能の速さへ突入……
近っ、……すぎる…
真っ直ぐあずりん先輩を見ていたフワリくんの視線が、ゆっくりと私の方へ下りてきた。
近すぎて、
どこ見ていいのかわかんない……
「すぐるー、あんたいないとあの人ら困るみたいだから、とっとと戻ってあげて」
「……。」
「、…」
なんで、こっち見るの……。
あずりん先輩が話しかけてるのに。
「あー、この子たち、私と一緒に雑用係すんの。かわゆいでしょ?」
フワリくんの白いワイシャツが、目の前に見える。
捲くる腕の筋が、ゴツクて男っぽい腕時計が、指が、目が、口が、フワリとした髪の毛が……
こんな、
こんな近くに……


