なにも……出来なかった。



なにも言えなかった……



好きです、なんて……全然、言えなかった……







「……好き、なの?」

「、…」



薄暗い廊下と、滲んだ瞳。


聞こえた声にスー先輩を見たけど、どんな顔をしているのか、見えない。




「好き、なんだよね……?」

「、…」



名前を出さないのは、きっとスー先輩の優しさだ。



「高橋ちゃんが泣きそうな顔してたから、連れ出しちゃったけど」

「、…」

「……余計なお世話、だったかな?」



私の周りには、優しい人ばかり。


友達も先輩も……みんな、本当に優しい人ばかり。



「、……よかった、です、……逃げたかった、ので」

「……」

「アリガトウ、……ゴザイマス、…」



薄暗い廊下を、ふらふらしながら歩く。


まだぎりぎり涙を堪えてるけど、目に溜まった涙のせいで、視界はもうぐちゃぐちゃ。



「よし、なんか飲みに行こう!」

「、…」



スー先輩が、私の手を握った。


あの日、フワリくんが手を繋いでくれた暗い廊下を……今はスー先輩と歩く。


手が温かかったから、溜まっていた涙が1粒、ポロっと落ちた。


手を引いて前を歩くスー先輩には、きっと気づかれていないから。


泣いてないフリをして、顔を上げた。



「、コーヒー牛乳が、……飲みたいです」

「よし、奢ってあげる!」




思い出の味を……


最後にいっぱい、味わおう。