「泣かない、よ、」
フワリくんがあげたうさぎの耳は、もう、愛原さんのもの。
うさぎの耳、だけじゃない。
フワリくんの手も、横顔も、優しさも、笑った顔も、
フワリくんの全部が……もう、愛原さんのものなんだ、、、
「泣いてんじゃん」
「、……、ッ、…」
思い出は……気づいたらもう、たくさん出来ている。
いつかの未来にならなくたって、もう、いっぱいある。
一目惚れをした、お昼休みの渡り廊下。
初めて合った、0.5秒の視線。
声を掛けられた、3年2組の教室。
一緒にもりりんの手伝いをした倉庫。
名前を呼ばれた放課後。
ミサンガを付け合った雨の日。
裾を引っ張られた体育の授業。
一緒に走った体育祭。
2人乗りした帰り道。
真っ暗な教室で、握ってくれた手。
思い出は……もういっぱいありすぎて、
今の私には、抱えきれない。
「……好き、って」
「、…」
「言おうと思って、捜してたんだ。……高橋のこと」
「…、」
関係ないんだと、思ってた。
告白をしたりされたり、……学祭は、カップルが増えるって聞いたけど。
どっちも……私には関係ないって、思ってた。
告白なんて、されることはないし、することもないと思ってた。


