「、…」
「……、」
手をぎゅーっと握ったら、階段途中で、フワリくんが少しだけ振り向いた。
なにかを……確かめるように。
「…、」
なにを……確かめているのか、わからないけど。
「……ん、っと、……」
「、…」
早く、なにか……言って、……
「大丈夫。もうすぐ、だから、」
「……」
怖いから……手を握ったんじゃないのに。
私はただ……ひとつでもたくさんの思い出が、ほしいだけなのに。
届かない想いでも。
叶わない想いでも。
泣いただけじゃない、思い出したくなるような思い出が……ほしいだけ。
でも、ぎゅーっと握った手からは、なにひとつも伝わらない。
「、…」
それでもいつか……フワリくんも、今日の日を思い出してくれるかな。
卒業して、うんと歳をとって……きっともう、私の名前だって忘れてる頃。
女の子の後輩と、学校に取り残されたって……いつか思い出してくれるかな。
フワリくんの思い出の中に、私はちゃんと残れるかな。


