「いい。その話、今しなくていい。」
「、…」
フワリくんが……いつになく、真剣。
ぎゅーっと握られている手の力は……今も、ぎゅーっとされたまま。
私を助けてくれる、王子様の手……
だけど現実は。
『さっちゃん』の……手。
「お前、今日やけに歯向かうな」
「……。」
優しいフワリくんは、私の手を握ってくれる。
こんなにも長い時間、ずっと。
それはフワリくんが、優しいから。
ただ……それだけ……
「お、こっから階段だぞー。コケんなよー」
「、…」
いい思い出に、なるかな。
「ななちゃん、階段、ゆっくりね。」
「、…ハイ」
夜の校舎に取り残されたことも。
暗闇の中、2人だけで喋ったことも。
手を……繋いでくれたことも。
いつか……
いい思い出に……なるのかな……
「外すげぇ雨だから、車で送ってってやること感謝しろよ」
「……。」
下りた4階に、人は誰もいない。


